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キャリアカウンセラーズ

キャリアカウンセラーズ③

まさかの三回目。理論と提唱者のフィクション化は、、二次創作に、あたらないよなあ。

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ライフサイクル論を提唱したレビンソンさんは、ついに亀を飼った。

もちろん、ただの亀ではない。2013年現在、亀の種類は約300種とされているが、そのタマネギガメ(和名)は、301種目ともいうべき、特別な亀。“最後の未開”と称される亀だった。

亀なのに、スリーサイズ比がスペインのトップモデルのそれと同じであるタマネギ亀には“文化/生活の嗜好が人類と酷似している”という民族学的サプライズが発見されていた。

要するに、〜観察者の喫煙を物欲しそうに見ていたタマネギカメに煙草を一本くわえさせたところ上手にプカプカをし、その後は鳴いてねだって一日十本を消費し、一年間その日課を続けたのち、禁煙外来のコマーシャルを流すTVを観察者に指差し、現在ではあめ玉をコロコロなめながら、他者の喫煙をうらやましげに眺めている〜というエピソードに基づいている。

何とも摩訶不思議、エロティックさも漂わせるその亀を飼うのに必要だったのは、莫大なキャッシュ、ではなかった。

世界でただ一匹しか確認されてないこの亀を、完璧な前例として、天寿を全うさせることのできる飼い主が必要だった。

そこで“SeasonsOfaMan’sLife”という、人の、高齢期までを含めたライフサイクル論を発表したレビンソンさんに白羽の矢があったのだ。

そのカメを、現代科学の最初で(最後かもしれない)モデルとして観察するにあたって、もっとも必要な視点とは、比較的簡単な安全性や衣食住の充実ではなく、各年代(青年期/成人前期/中年期/老年期)に生じる変化を捉え、飼育を対応さえようとする繊細な視点だった。

“煙草は美味しいけど、将来を考えるとなあ”と刺激(喫煙)を、より安全性の高い刺激(あめ玉)で代替えしたタマネギカメの感性には、“ライフサイクル”という長期的展望が備わっているとう前提のもと、小さいころからカメが飼いたくて飼いたくて毎晩夢に見る程だったというレビンソンさんのもとに預けられた。

こうして、レビンソンさんとタマネギカメ(“レビちゃん”という名前が付けられた)の長い共同生活が始まった。

タマネギカメの寿命は50年と言われていた。たった唯一の文献、古代書に「50年くらいだなあ」と象形文字で書いてあったのだ。“タマネギカメ”と命名したのも、この記録者である。しかしその由来は不明。

たった3ページの文献の記録の描写と、レビちゃんの外見/行動を照らし合わせると、その年齢は10歳(人で言う20歳)というところだった。

しかし、レビちゃんは、知らない人の家に来たばかりだからか、いつもレビンソンさんの足首にしがみついていた。

「知らない人の手を渡り歩いてきたんだものなあ」

とレビンソンさんは微笑み、右足をゆっくり動かすよう努めた。順調な同棲生活だった。

一年後、レビちゃんの帰りが遅い日が増えた。俯いて玄関に入ってきて、“申し訳ない”と言わんばかりにスゴスゴと二階の自室へ入っていくが、どうも足取りが千鳥足だ。次の日、レビンソンさんが後をつけてみると、大学の研究室に顔を出した(日課、レビちゃんの仕事である)あと、家のすぐ近所のバルに寄り道をしていた。レビンソンさんは、レビンソンさんに黙っていたバーテンダーに厳重注意をし、その若いアルバイトに仕事着を借り、バーテンダーに成りすました。

「人って、もともと二人で一人だったらしいんですよ」

とレビちゃんが、カウンターに置かれたグラスに視線を落としながら、言った。

「はあ、そうなんですかい」

とレビンソンは、裏声で相づちを打った。

「それが、偉い人のせいで、二つに分かれちゃったんですって」

とレビちゃんが言った。ゴツゴツした両手で上手にグラスを挟み、続けた。

「だから、人はずっと、自分の片割れを捜し求めるんだそうです」

「はあ、それは、難儀ですな」

とレビンソンは答えた。

「でも、わたしはカメじゃないですか、珍種の」

「ええ、まあ、そう見受けられますね」

「わたしの片割れは、見付かるときがくるんでしょうか」

グラスを持ち上げる様子なく、レビちゃんはそう呟いた。

——成人への過渡期だ。

レビンソンはそう確信した。

グラスの中の液体を吸い上げようと四苦八苦するレビちゃんを見ながら、これから訪れる、彼?の生活の変化を見届け、また対応しなくては、とレビンソンは研究者としての意気込みを新たにした。

過渡期(transition)とは、誰にでも訪れる、不透明で不安定な時期である。しかし、その発達ステージにおける人生の危機を、自分と深く向かい合い、周囲を見直す好機とし、自己再生(self-renewal)を図ること。

それが、次の段階への、新たな発達となる。

それがレビンソンさんの研究…いや人生の教えであった。

結果、レビちゃんは、人間でいう20/30/40/50/60歳の前後5年に、同じような過渡期(キャリアの質的変化)の兆候を見せ、文字通りタマネギのように一皮一皮むけていった。脱皮したのだ。

人間でいう30歳前後の過渡期には、10年という節目をきっかけに、自分の仕事について、悩むようになる。研究される仕事。レビちゃんは、自分のルーツについて読み漁り、故郷について学習することがいつのまにか新たな日課になる。

そして、先に寿命が訪れたレビンソンさんが亡くなったころ。人生半ばには生涯で最も情緒不安定になり、脱皮のあとには、甲羅がなくなっていた。

そうして、最大の保護者であり理解者である人を失ったレビちゃんは、名前だけを引き継ぎ、一人立ちをした。ジャングルに帰り、老年は自然回帰したことになる。

そして、人間でいう50歳前後には、異種亀の奥さんを持った。その五年後、(人間でいう)60歳前後には、自己の人生をそのまま受け入れた。

そして二十年後のある冬の日、息子や孫、妻に囲まれながら、その波瀾万丈の人生を終えた。

天国では、レビンソンさんと再会の祝杯を交わすことができた。

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煙草を吸う亀は、実在するそうです。ググると、写真がでてきます。(T)


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